2019/02/17 22:19




   時々妻に付き合ってスーパーに行くと、ショーケースに並べてある枯露柿に視線が行きます。自分で作っているからこそ目が行ってしまうのでしょう。どこで作られた物かつい手に取って見てしまいます。このショーケースに並ぶまでにはいろいろな苦労や様々な過程を得て初めて消費者に喜ばれる商品となっていくのです。作っている人は、みんな同じ気持ちでこの商品を眺めているはずです。僕は毎年、枯露柿と瓶詰を桃の収穫が終わる9月に作り始めます。枯露柿は出来るだけ実が熟すまでぎりぎりまで木に残し収穫後、大量の柿を手作業で剥き、酸化して黒くならないように硫黄で燻蒸してすぐに軒先に干して並べます。1か月ほど揉みつつ干した後、平らな台の上で平干しをして何回ともなく柿の表裏を太陽に当てます。数日繰り返すと白いブドウ糖(粉)が噴出してきます。乾きを見つつ3日間段ボールに寝かし、再び太陽に20分間ほど当てると全体に粉が行き渡るようになります。これでやっと仕上がりです。産地のかたは僕以上に神経をすり減らしながらこれらの作業をされていることでしょう。しかし必ずしも良い商品が毎回出来るわけではありません。自然の御機嫌次第です。気温が高い年はすぐにかびたり腐ったりして全滅することも少なくありません。これまでの苦労が水の泡になってしまうのです。自然には逆らえません。いろいろな思いの籠った「たった1個の枯露柿」。たとえ人が見向きもせず、売れなく、腐っていくとしても1個たりとても捨てる気持ちにはなりません。僕にはこの「たった1個の枯露柿」が「宝石」に見えてくるのです。